ガラスの家
現代インドネシア文学の傑作、プラムディヤ・アナンタ・トゥールの「ブル島4部作」の最終巻「ガラスの家」を読んだ。プラムディヤは2006年の4月に既に亡くなってしまったが、第3巻である「足跡」が1998年に翻訳出版されて以来、続く「ガラスの家」はいつになっても出てこなかった。2007年8月に待望の「ガラスの家」が「めこん」から出版された。
この本を読むにあたっては現在のインドネシアの原型が形成されるオランダ植民地時代後半からの歴史を簡単でもいいから知っていると良いと思う。ということで簡単に並べてみる。こうやって並べてみると、なんて絵に描いたような歴史なんだろうと考えてしまう。
オランダによる強制栽培制度の導入&植民地化(オランダ領東インド)
ナショナリズム運動の拡大
ドイツ国占領下によるオランダの弱体化
日本軍の侵攻及び軍政支配~第二次世界大戦日本軍降伏
スカルノらによるインドネシア独立宣言~イギリス軍&オランダ軍の最介入介入~独立戦争~独立
マレーシア対決政策による国際社会からの孤立、経済政策の失敗
9月30日事件(軍事クーデターの失敗、スハルトによる共産党勢力の掃討、インドネシア共産党の壊滅)~スカルノの失脚
スハルトへの大統領権限の委譲~開発主義(開発独裁)政権、東ティモールの軍事併合
アジア通貨危機、民主運動~暴動、スハルトの失脚
スハルト政治の清算と民主化への流れ、東ティモールの独立
初の国民直接投票による大統領選挙(2004年)
そういえば2004年にバリ島へ行った時にバリ人M氏に午後の観光案内をお願いしたところ、丁度この選挙の投票日で投票に行く都合上、観光は午前中に強制されたんだっけ。彼はスシロ・バンバン・ユドヨノに入れたのかメガワティに入れたのかとにかく選挙熱は凄かったのだ(脱線)。
「ブル島4部作」の舞台はナショナリズム運動の拡大~ドイツ国占領下によるオランダの弱体化の時期にあたる。主人公ラデン・マス・ミンケは当時「サレカット・イスラム(イスラム同盟)」を結成したプリブミ(非華人系原住民)のジャーナリスト、ラデン・マス・ティルトアディスルヨをモデルにしている。その他の登場人物も実在の人物をモデルにしたものが多く、フィクションとノンフィクション、メロドラマ(主人公は女たらしである)とナショナリズムが交錯する中にスハルト時代を思わせるいくつかの仕掛けが組み込まれ、単純な大河小説とは味わいが異なる。
実際にプラムディヤは9月30日事件の直後に共産党員ではないにもかかわらず政治犯としてブル島へ10年間流刑された。そのブル島で書かれた大河小説がこの「ブル島4部作」であり、出版された4部作全てがインドネシア内では発禁処分となり、読んだ者まで逮捕されるという事態となった。
反して国外に持ち出されたこれらの本は多くの国々で翻訳されプラムディヤの作品は世界的な評価を受けることになった。
最後の「ガラスの家」はこれまでの主人公ミンケの語りから一転して、ミンケらナショナリストを弾圧、コントロールする側であるプリブミの官僚パンゲマナンの口から語られる。
また「人間の大地」から読み返さなきゃいけない。
「人間の大地 上 (プラムディヤ選集 2)」→amazon.co.jp
「人間の大地 下 (プラムディヤ選集 3) 」→amazon.co.jp
「すべての民族の子 上 (プラムディヤ選集 4)」→amazon.co.jp
「すべての民族の子 下 (プラムディヤ選集 5)」→amazon.co.jp
「足跡 (プラムディヤ選集 6)」→amazon.co.jp
「ガラスの家 (プラムディヤ選集 7)」→amazon.co.jp
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